ジェイホワイトを味わう
前回からのつづき記事となります。前回の『ジェイ・ホワイトが処方箋になる時』を一読の上、今回を読んで頂けたらより楽しめるかもしれません。 前記事では、レインメーカー中毒に対しての警鐘を鳴らす内容を書きました。これは実を言えば、オカダの存在感があまりにもパワーを持ちすぎている事への讃美でもあります。今のオカダ・カズチカは、はっきり言って凄すぎる。プロレスラーとしての説得力はまさにレベルが違います。
前記事で酸っぱくなる程書いたハッピーエンド感という言葉。
NJC2019で全身から溢れんばかりに光りを放ったオカダに多くの観客が脳内分泌を促されたはずです。それはハッピーエンド感という禁断的幸福。これがもし常態化してしまっては物語の毎章がそれで埋め尽くされかねない。
危険です、物語の変革は絶対に必要です。オカダの時代もエース棚橋の時代もなかなかその牙城は崩れません、ジェイ・ホワイトは二人を去年破っていますしオカダに至っては二回も切り裂いているのにです。
それなのに、オカダの魅力と存在感は増すばかり。
レインメーカー・オカダはプロレスラーとして一つの完成形といっても過言ではないと言い切れます。もっと言うなら、オカダ・カズチカは例えばプロレスラーじゃなくても成功する器の持ち主であり、スポーツ選手でも、芸能人でも、アーティストになったとしても主人公になれたでしょう。
それくらいの万能者、オカダ・カズチカこそ超人の名に相応しい人間だと思います。ですが、私は新日本プロレスの物語において新たな顔を見たい。新たなページをめくり、展開の幅をさらに広げてほしい。
それはもっと噛み砕いて言葉にするならば、感情のドキュメントをもっと多様に楽しみたい、といった所でしょうか。
感情のドキュメントとは何か?
それは心の振り幅を指します。嬉しいもあれば悲しいもある、悲喜交々がそれを形成し、その時のストーリーで解釈は無数に増えます。
ゆえにハッピーエンドの一辺倒ではドキュメントにはならないのです。
ハッピーエンドを壊す者の出現、そしてバッドエンド(もちろんその続きはある上で)という物語の山場を起こしてくれればこその感情のドキュメントなのだと思います。
今回の記事ではジェイ・ホワイトを味わってみましょう。
ハッピーエンド感しか受け付けなくなっている人がもし居るのならば、これは処方箋になるやもしれません。
ニュージーランド出身の若干まだ26歳のジェイ。
彼は2014年に新日本プロレスの入団テストを受け、翌年には日本デビューを飾っています。
ただ彼は新日本入団前に海外でもプロレス経験を持っていました、それにも関わらずゼロからの出発を望んだのです。加えて、ヤングライオンという日本独特の道場制度を経験する事にもひたむきに努め、順応し、今では考えられないとってもキュートな可愛いジェイホワイトがそこには居たのでした。
(雑用をこなす当時のジェイ)
2016年、団体の期待を背に受け無期限の海外修行に旅立ちます。
一体どんなキャラクターとなって戻ってくるのか、この時既に今のスイッチブレイドを頭に描いていたかは本人のみぞ知る、ですね。
2017年突如の凱旋帰国です、サイコな雰囲気を纏っての登場に期待感のハードルがやや高めに上がってしまったのは否めませんが、帰国早々にエース棚橋が迎え打った状況を見るに団体からの期待もそれだけ高かったのは間違いないでしょうか。
当時この時は、ジェイのキャラクターチェンジは成功しているのか失敗しているのか未知数な雰囲気であった為、観る側の反応さえも手探り状態だったのは記憶に新しい所です。
それに、なぜか唐突なケイオスへの加入といった流れにも、なかなか観る側の感情を動かしきれなかったのは苦い時期です。
ケイオス裏切りからのその後の話は端折りましょう。皆さんご存じの通りでしょう。
そんなジェイホワイトですが、一体彼のどこを味わえばいいのか?どこに魅力を感じればいいのか?
それはジェイ・ホワイトのサイコチックな表情、の部分でしょうね。
試合巧者なジェイホワイトでもありますし、一撃必殺のカウンター技であるスイッチブレードもかなりのインパクトを持っています。
しかしそのインパクトをもたらしているのはジェイ・ホワイトが魅せる表情に秘密はあるのです。
この表情。スイッチブレードが決まった後に見せるこの表情。
まるで鋭い何かが一瞬にして戦慄を走らせた後に、どうしようも無く漏れる恍惚な表情。
ジェイはこの自身の表情で技の威力、説得力を表現するのです。
いやはや恐ろしい、身震いします。だけど目が離せない、ジェイのこの美しく残酷な瞳に吸い込まれそうです。
この表情がもたらしてくれるのはハッピーエンドでしょうか?
冗談言ってはいけません、もちろんバッドエンドです。
ハッピーの旋律を容赦無く切り刻む魅惑のバッドエンド。ナイフの使い方はいつだって美しくなくてはなりません。ジェイは確実に「表現者」になれるプロレスラーです。
今回のNJC2019決勝戦後に登場したジェイ・ホワイトですが、この時には更に表情だけでなく、表情を生かす為の最善な方法とも言うべき「間」を適格に披露してくれました。驚きです、未完成な若きジェイが遂には「間」を駆使できるようになっていたとは。
今回ジェイが私達に見せてくれたのはブーイングに対しての「間」でした。
ジェイ・ホワイトがマイクを握り、さあマイクパフォーマンスをするぞと構えた瞬間からブーイングが飛び交います。まずはブーイングがするリング外へ顔を向けて視線を向けるだけ、という「間」
そしてオカダの顔の前で喋り出してからもブーイングは止みません。
ここでは視線をあえて下に落とすだけ、という「間」
ブーイングは更に続きます。
今度はブーイングに対してニヤけるだけ、という「間」をジェイは使います
ブーイングはしつこい位に止まりません。挙句にジェイが出したのはなんと、
飽きれ顔をするだけという「間」の使い方
何が凄いか、この「間」を使っている時のジェイは視線と表情のみで自分の空間を維持した点です。あえてその間において言葉は用いなかったのです。
ちなみに映像で私が確認する限りでは、このブーイングに対するジェイの「間」は7回も行われました。7回ですよ?
ちょっとさすがに多すぎる気もすぎるかもしれませんが、ブーイングに対してジェイはきっちりと反応してくれた、とも捉える事ができるわけで、それはサービス精神の塊ではないでしょうか。すべてのこの間において、ジェイはマイクパフォーマンスを中断する徹底さ。繊細ですよ、彼は割れやすいガラスの様に繊細です。
ブーイングを無視してマイクパフォーマンスを淡々とこなす事もできたはすです。しかしジェイはそんな雑な事はせず、ブーンイングに対して「間」を使って丁寧に対処したわけです。
そんな繊細な嗜みを持ち合わせる選手ならば、日本語なんて喋れなくても全く問題無いと言えるでしょう。ブーイングに対しては全てこの「間」で迎え撃てばいい。
今後もジェイ・ホワイトには独特な「間」を構築していってもらいたいですね。
その為にさらにサイコな表情もどんどん現してもらいたいと思います。
ちなみに、入場時にもブーイングに対して視線と表情を使いきっちりと反応していました。
さすが几帳面な切り裂きナイフ男、ジェイ・ホワイトです。
味わいましたね?、ジェイホワイトを。
それでは次に、ジェイ自身の今後の物語についても少し触れてみます。
ジェイ・ホワイトがまだ未完成であると判断できる要因をここで少し考えますと、バレットクラブというユニットがむしろジェイホワイトのキャラを迷わせてしまっているように思います。
去年の時点ではまだ仕方ありませんでした。ジェイ・ホワイトの存在感を無理矢理補強する為にも海外でも名高いバレットクラブに所属し、更にはかつてのオカダの様に外道とセットにする。方法としてはとても正攻法でしょう。
ですがジェイの今後の物語を考えるならば、それは新しいストーリーすなわち新しい立ち位置となる上でむしろ邪魔ではありませんか?
ハッピーエンドを提供できるキャラクターはもう充足中です、今はバッドエンドをプレゼントしてくれるキャラが急務です。
一体『何者』の活躍がそれを実現させてくれるのか?
そう、ジョーカーってやつですよ。
孤独なサイコには仲間意識なんて必要無いはずです。そして自分の表現はもはや自分1人で可能でしょう、今のジェイなら。
だって「間」を使えるんですから。
バレットクラブも相棒も不必要、捨てるべきです。
新しい物語にはジョーカーの出現が効果的ではありませんか?
他の誰でも無い、まさにジェイ・ホワイトが適任です。
ユニットにも属さず本隊にも属さない、帰属意識を徹底的に避けるジョーカー、ジェイはジョーカーになるべきです。
孤独でなければ産まれない物語、孤立していなければ抱けない感情、孤高を目指す者のみ見える景色
孤独、孤立、孤高。そんな感情を表現できるのは新日本の現状においてジェイ・ホワイトしかいないかもしれません、彼が見せてくれる表情は本来そういったものが本質としてあるように私には思えるのです。
まずはオカダのハッピーエンドを食い止めるのがジェイの責務。
そして物語を進め、新しい章では新しいジェイ・ホワイトに作り変えてもいいかもしれません。ケイオスを裏切った過去、次はバレットクラブも切り裂く準備を始める未来がそこにはあるかも。
一匹狼になって、独自の個性を構築していけばいい。
レインメーカーにもエースにも真似できない、そしてロスインゴ内藤とも一線を画すジョーカーという立ち位置。
ジェイ・ホワイトは何者になれるか?その答えはもう少し先になるでしょう。
さて、読んで下さる全員の方が納得のできる処方箋は書けなかったかもしれません。それにこの処方箋は強制できる代物では到底あり得ません。
したがって、MSGのメインイベントIWGP選手権においてどちらを応援するかはもちろん自由です。
ハッピーエンドかバッドエンドか、どちらにしても物語にはそれぞれの楽しみ方がある。
私が言えるのはそれだけです。新日本プロレスという物語を楽しみましょう。
長文失礼しました。読んで頂き嬉しいです。
次回更新の時にもぜひのぞきに来て下さいね!
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