前編 後戻りのできない物語を選んだ男、飯塚高史。~ヒールとは何なのか~
1人のレスラーが現役生活に幕を閉じようとしています。怨念坊主ことヒールレスラー飯塚高史の引退、正直な所ここまでの盛り上がり、話題の中心にまでクローズアップされるとは予想外といえるでしょう。
確かに、会場の熱を上げるのには欠かせないレスラーの一人ではあることは周知の事実ですが、シングルマッチはほとんど組まれなくなり、ベルト戦線にも絡む事はほぼゼロになったベテランレスラーであるのも事実です。まさかここまでワクワクさせてくれる引退ロードになるとは当初予想していた人はいるでしょうか?
ではなぜ? なぜここまでの大きな話題にできたのか?
大きな理由としては、やはり予想できない結末を構築できた事、でしょうね。
天山が再度呼びかけた友情タッグへ応じるのかどうか、そしてそれにより飯塚の魂は最後の最後で戻るのか!?
ストーリーはベタベタなんです。ほんとに。だけど結末だけが確信を持って予想できない、この現象は実はプロレスにおいて結構まれな事だと思います。
ストーリー自体はプロレスの様式美みたいなものですし、よくある流れです。なのに、もしかしたら飯塚は引退のその最後でさえも、天山をアイアンフィンガーして去っていくのではないか?この可能性がわりとあり得ると思わせてくれたからこそ、今回の引退劇の結末が読めないとなったわけです。
普通であれば、最後の最後はなんだかんだ言って天山と抱き合って締めるんでしょっと予想しきれるはずのストーリーなのに、今回は、「いや待てよ?これもしかしたら飯塚はクレイジー坊主のままリングを去るんじゃないの?引退試合なのにバックステージコメントも一切喋らない形を貫くんじゃないの??」、と。
ストーリーはシンプルなのに結末だけはどっちに転ぶか分からない、これはまさに物語構築のお手本みたいなものでしょう。
それが今日の引退をもって完成するわけです。
この飯塚のヒール物語を完結させるだけでも一体何年の時間を費やしたでしょうか、プロレスって本当に偶然と必然のハーモニーとしか思えません。大雑把な時もわりとあるのがプロレスですが、それも長く時間を費やして織り重ねていけば、ヒールとは何かというドキュメンタルな物語にできてしまうわけですね。 まあもちろん、それは飯塚本人の怨念坊主キャラを貫き通したという確固たる信念というか、その背中を見せ続けた証みたいなものなわけです。
オカダや棚橋や内藤といった後輩にあたるレスラー達が光り輝き、大活躍していく中、大先輩である飯塚は頑なにヒールスタイルを貫いています。純度100%のヒールです。中途半端に客の反応を気にする様な建前だけのカッコつけヒールでは無く。飯塚が何年も体現し続けたヒールという役割、彼こそがヒールとは何なのか?というシンプルな問いにアンサーをくれたレスラーです。
彼の物語を少しだけ語ってみます。
飯塚が今のヒールになってからの姿は皆さんもよくご存じですし、今回はたった一つに焦点を絞って私は書いてみようと思います。それは、彼がヒールを選択する前の姿の時。さらに、その中でも飯塚が本隊正規軍の時のもっとも輝いていたその一瞬の時を、ここで綴っておきたいと思います。
彼がヒールを選んだきっかけ、そしてそれは後戻りのできない覚悟の選択であったのかもしれない。私の妄想と空想でしかない文章である事を承知して頂き、続きの後編を楽しんで読んでもらえたらと思います。
つづきの記事です↓