ロスト物語症候群
後編~物語の使者~
こんばんは、筆者のクスノキです。
前回記事からの続き記事『ロスト物語症候群』の後編となります。
昨夜の4.29グランメッセ熊本、皆さんご覧になられましたでしょうか。
メインの試合は非常に内容も良く盛り上がった事と思います。結果はジェイ・ホワイトが後藤洋央紀を撃破。後藤選手への応援も捨てきれず決する瞬間まで私の胸中は揺らいでいましたが、それでもやはりジェイがなんとか勝利を収めた事に安堵。
ジェイについて引き続き書いていきます。
前記事では、いわゆる『ロスト物語症候群』について書き、レインメーカー中毒への危機感を促しました。それに付随して現王者オカダ・カズチカがもたらすハッピーエンド感の蔓延への警鐘を説き、その為のジェイの必要性を存分に書きなぐってみたのです。
まるで皆さまご存じかの如く綴っている用語ですが、一体こいつは何を言っているんだ!?とお感じなられた方は是非とも前回の前編記事をご覧になって頂けたらと思います。ロスト物語症候群とはそもそも何かを説明している次第です。
今回の後藤戦で更にジェイ・ホワイトの魅力が増したのは間違いありません。入場時から異様なほどの雰囲気を漂わせるジェイには感服です。
もはや反則級の表情。
産まれ持った顔の輪郭や造りが土台にあるにせよ、それを十二分に生かしきれるかどうかが重要です。表情は自分で思考し備わっていくもの。生かすも殺すも本人の気質と才能、そして強い願望がそうさせる。自分がどうなりたいか、それにはどう表現すればいいか。まだ若いジェイも試しながらの手探り状態を果敢に挑んでいるはず。
しかしながらその段階からもう既に今の形を形成してしまうのはあまりに恐ろしい、間違いなく将来ジェイ・ホワイトは大物になるでしょう。今以上に魅力を増大させ化物になってしまうのが楽しみです。
ジェイをWWEに取られてはダメですよ。それだけは可能な限り阻止すべき。
将来本人の強い希望であれば仕方ありませんが、せめて待遇を強固にして新日本プロレスはジェイを離したくない意志を示し続けるべき。
私がそんな野暮な事を云うべきではありませんが、いささか心配なのです。私がもしWWEの立場なら、ジェイ・ホワイトは喉から手が出るほど欲しいですから。
なんせゼロから選手を育てるシステムを好まないWWEならばヘッドハンティングは常套手段、むしろそれこそが最良なビジネスモデルであると信奉しているなら尚更です。
でもそこには物語が無い、残念ながらね。エンターテイメントと言えども、なんでかんでもビジネスの観点だけで語るのは私は大間違いだと思っています。
すいません、話が逸れてはいけませんので戻します。とにかく、ジェイの持つヤングライオン育ちからの物語の軸を大事にし、彼の今後の物語がいかに魅力的になるかを私がここでは書かせて頂きます。
まずはジェイ・ホワイトの最近のマイクパフォーマンスを見てみましょう。
なんというビックマウス。素晴らしい。
これは半分虚勢にも見て取れますがそうじゃない。パフォーマンスでありながらも本心かつ願望、そして彼の意思です。意志?どういう意味か?それはこの次のコメントから明らかになっていきます。解き明かしていきましょう。
ここで注目をすべきは「俺の力を利用して」という部分。
なるほど、自分を主体としつつも他者との関係性に触れているこの言葉。ですがこれは攻撃性の塊と言わざる負えません。自分と他者、そこに共有を意図しつつもそれは理解や円満などといった生温さの介在は一切許さないほどに。
そして次のコメントでそれは明らかになる。
「レインメーカーは俺無しでは輝けない」
そうです、そういう事なんです。
もうお分かりですね?ジェイホワイトの立ち位置、そしてジェイホワイトがこれから更に構築していく世界観がどうなればより大物になれるか。どうなれば物語はもっと面白くなるか。
答えは簡単、彼が何者になるべきかは明白です。
そうです、 ジョーカーです。
レインメーカーが光を照らすのなら、スイッチブーレードは闇で覆えばいい。
オカダ・カズチカがハッピーエンドを降り注ぐなら、ジェイ・ホワイトはバッド・エンドで切り裂けばいい。二人は正反対にその姿をさらしていますが、これらを別世界と切り離す事をしてはいけません。なぜなら、ハッピーエンドだけの物語は面白くない。
ハッピーエンドだけじゃ笑えない、アンハッピーでもつい笑ってしまう時がある。それが哀しい笑顔だとしても笑顔は笑顔。最も不幸なのは表情に一種類しかない事なのです。一種類のみならばそれは無表情に値し、無表情に近いスマイルだけじゃ物語は動かない。
それではどうしたって物語は展開を果たせないのです。
要はジョーかーとは使者。
停滞した物語、つまりはハッピーエンド感しか存在しない物語への介入を以てして、新たな展開を案内してくれる使者です。
物語の案内人でもあるこのジョーカーは破壊や混乱を招きますが、それが目的では無くあくまで手段。その手段はハッピーの住人達へ失望という名のギフトを与えてくれる基本的な作業でしかありません。
贈り届けてくれる失望がやがて絶望に変わる頃、私達は手放したはずのハッピーエンド感への渇望を始めます。それは希望という二文字で表せるものの、なんとも自分本位で不安定な欲望でしかなかった事に気づいてしまう。
そしてようやく知るのです。
ハッピーエンドはバッドエンドの上で成り立つ事を。ハッピーはバッドに支えられているというどうしようもない事実に。
光と影は一対、絶望と希望は一体。形はそうかもしれませんが、解き明かせば実の所は違う。物語は悲哀や憎悪、苦しみや葛藤が面白くするのです。誰もが認めたがらないかもしれませんが、私は血反吐を垂らしながら勇気を振り絞って伝えます。
ストーリーの軸を支えているのは失望感でした、これが真実です。
そこにどうハッピーを慎重に乗せるか、ハッピーをむやみやたらに乗せてはいけません。繊細な手つきと良い案配、そしてアンハッピーへの素通りは禁物となるわけです。
ここでジョーカーたる者の魅力を更にご紹介。
ジョーカーの魅力といえばその立ち振る舞いこそ言わずもがな。しかしもっと魅力的に映るのはそのセリフ、いちいち狂気です。
「おれは混沌の代理人さ。混沌の本質が分かるか? 恐怖だ」
あれ? 混沌といえばケイオスというユニットがありますね。しかもオカダが率いるユニットがまさかの混沌を名乗るとは悪い冗談でしょうか。今やケイオスの本質はハッピー、それはそれで楽しそうでいいのですがここで言う混沌とは異なります。それぞれの個性が自由に在る、別々の個性が混ざり合う、ユニット「ケイオス」の方はそんな所の意味合いでしょうか。
「おまえが俺を完璧なものにするのだ」
心理をつく、または真理を突くとはこういう事を言うのでしょうね。これは一見ジョーカーからの一方通行の様な発言にも思えますが違います。
ジェイにっとてのオカダ、しかしこれは逆であってもそうなってしまう。レインメーカーを完璧なものにするのはスイッチブードであるとも語れてしまうわけですね。
「なぁ、俺は怪物じゃない…ただ先が読めるだけなんだよ」
ジョーカーが怪物かどうかは分かりません、それは観る側の精神状態や立場によって怪物かどうかの判定にエラーが生じるからです。
物語の読者の観点からすればジョーカーは怪物ではなく使者。
このセリフの重要なところは先が読めるという部分にあります。先が読めるというのは予知予測の意として解釈するよりは、人の心が読めると解釈してしまいましょう。つまりは人の心が理解できる優しさがあるとも思えますが、悪のレッテルのせいでそれは狂気と名付けられてしまった。この悲しさや侘しさが世界を補完してしまう事もハッピーを支えているのです。これが幸せの矛盾というやつですね。
ここまで読むとあまりにジェイ・ホワイト(joker含め)のボリュームが贔屓的過ぎますのでバランスを挟みましょう。
現オカダ・カズチカが身に纏舞う絶対的ハッピーエンド感。この域に到達するまでにオカダ自身にも試練が幾度あったことは少々書き足しておかなければなりません。惜しみない賞賛を送るべくオカダの物語を。
オカダの帰国早々は波乱の始まりでした。
レインメーカーショックというプロレス事件史はそのネームバリューを一躍有名にしつつも、まだ早すぎるという生意気扱いもファン側から無かったとはいえません。それでもオカダは突き進み、認知と実力を重ね絶対王者時代という難易度の高いステージに突入、しかしまたもそこではファンからの反感が待っていました。絶対的すぎてしまったがために反発を生む、よくある話です。
そしてベルト落としてからは肩の荷が降りたかの様に隠していた自我を解放しなぜか風船パフォーマンス。微妙な迷走があってからの這い上がりハッピー大爆発。そして有名声優との入籍。
濃厚…、こんな人生誰が歩めますか?豊潤なドラマが詰まっています、詰め込んで押し込んで一気に箱を開いた時のあの解放感にも似たパーティー感、そして余韻の残る幸福感。この居心地の良さや一体なんなんでしょうか!
ノーノーノー
冗談はここまでにしましょう。取り乱した私にお許しを。
解放感?パーティー感?幸福感?
なんですって?!それがハッピーエンド感の正体だって?
いえいえ、冗談言っちゃいけない。ジョークにだって限界はある。ノーリミットな冗談はただの悪夢だってこと、悪酔いから早く目を覚まさなければ。レインメーカー中毒にまだ気づいていないなら手遅れになれないうちに早く。
現オカダ・カズチカがもたらすハッピーエンド感に解放感を抱くならそれはもう中毒症状かもしれません。だけどあがなうしかない。ハッピー感に押さえつけられぬ様、レジスタンスで在りたいならJokerのカードを手に握るのです。彼を待つしかない、信じる事で使者はやって来る。物語のどこからともなくやって来る。
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